技術紹介Technical
水処理紫外線によるレジオネラ属菌の殺菌(R1)
レジオネラ属菌とは
土壌中に生息するグラム陰性桿菌ですが、自然界に広く分布しアメーバーなどの原生動物の体内に寄生し増殖します。一般に20~50℃で繁殖し36℃前後で最もよく繁殖します。レジオネラ属菌の感染力は弱く普通は人へは感染しないが、抵抗力が弱った人には感染(日和見感染)し、劇症肺炎に似た症状起こします。
細かい水滴(エアロゾル)や土ぼこりに付着して生活環境に入り込み、生殖し易すい場所であればどこでも繁殖します。これまでにクーリングタワー、循環式浴槽水(24時間風呂を含む)、給湯設備、温泉水、加湿器、水景施設等からレジオネラの検出が報告されています。温泉入浴施設におけるレジオネラ属菌は、pH3以下の酸性の温泉や60℃以上の高温の泉源には生息しませんが、アルカリ側の温泉ではレジオネラ属菌が生息可能です。
厚生省により2000年12月15日付けで「公衆浴場における水質基準等に関する指針」が全面改正された時、レジオネラ属菌の水質基準値に10CFU/100ml未満という基準が設けらました。
レジオネラ症
普段健康な人がレジオネラ症に罹っても症状が出なかったり、軽い風邪程度の症状で済んでしまいます。一方、老人や抵抗力が低くなっている人は重い肺炎を起こして、レジオネラ症に効かない抗生薬を投与されている間に、短時日で死亡します。最近は温泉や病院での死亡が増えており、犠牲者は病人や老人が多い。
レジオネラ菌の殺菌
殺菌法には塩素殺菌・オゾン殺菌・紫外線殺菌・加熱殺菌があります。塩素・オゾンともに残留効果を有し消毒効果もありますが、独特な臭気があり残留物への対策が必要です
これに対し紫外線は残留性が全くなく、水質への影響もほとんどありません、しかし紫外線を透過しない濁度のある水の殺菌には向いていません。紫外線殺菌装置は図1に示すように、温泉水などの原水を装置内に通すだけで、紫外線により秒単位での殺菌が行われ、OUT側から殺菌された処理水が得られます。
薬剤(塩素、オゾン等)による殺菌は、薬剤の濃度と接触時間が殺菌率に影響しますが、紫外線殺菌も紫外線照度と接触時間の積の紫外線露光量が殺菌率を決めます。
表1.90%殺菌に必要な紫外線量
微生物 | UV露光量(mW・sec/cm2) |
---|---|
Bacillus anthracis(炭疽菌) | 4.5 |
Bacillus anthracis(炭疽菌)芽胞 | 54.5 |
Bacillus subtilus(枯草菌)芽胞 | 12.0 |
Clostridium Tetani(破傷風菌) | 12.0 |
Corynebacterium diptheriae(ジフテリア菌) | 3.4 |
Escherichia coli(大腸菌) | 3.2 |
Legionella pneumopila(レジオネラ) | 1.0 |
Micrococcus radiodurans(ミクロコッカス) | 20.5 |
Mycobacterium tuberculosis(結核菌) | 6.0 |
Pseudomonas aeruginosa(緑濃菌) | 5.5 |
Salmonella enteritidis(ゲルトネル菌) | 4.0 |
Salmonella paratyphi(パラチフス菌) | 3.2 |
Salmonella typhi(チフス菌) | 2.1 |
Salmonella typhimurium(ネズミチフス菌) | 8.0 |
Shigella dysenteriae(赤痢菌) | 2.2 |
Staphylococcus aureus(病原性ブドウ球菌) | 5.0 |
Streptococcus faecalis(スプレプトコッカス) | 4.4 |
Streptococcus pyogenes(化膿レンサ球菌) | 2.2 |
Vibrio comma(コレラ菌) | 6.5 |
原典:金子光子:講座・消毒(28), 月刊浄化槽,No.220, 8月(1994)P40 |
注:UV露光量(mW・sec/cm2)=紫外線照射強度(mW/cm2)×照射時間(sec)
菌種によって殺菌に必要なUV露光量は異なり、そのデーターはIES Lighting Handbookに詳しく記載されています。レジオネラ菌のデーターはまだ多くないのですが、それが記載されているデーターを表1に紹介します。一般に病原性の強い菌は紫外線に弱く、レジオネラ菌も弱いとされる大腸菌より弱く、紫外線はレジオネラ殺菌に有効な事が分かります。
表1は微生物とその90%殺菌に必要なUV露光量が示してあります。実用的には99.9%から99.99%の殺菌率が必要で、99.9%のレジオネラ殺菌に必要なUV露光量は約3.0mW・sec/cm2です。レジオネラ菌の殺菌データーはまだ少なく、今後その値が変わる可能性があります。しかし大腸菌より弱い事は間違いないと思われますので、メーカーの提示している大腸菌対象の処理量を守れば安全です。