技術紹介Technical
水処理UV促進酸化水処理技術と装置の解説
1.はじめに
GE、PHILIPSなどが1938年に殺菌ランプを発売し、1940年には水殺菌装置を市場に出したように、紫外線の水処理への利用は殺菌分野が早い。他方、紫外線による水質浄化は、研究レベルでは多く行われてきたが、実用化はなかなか進まなかった。国内では、1970年代初に東レが塩素と紫外線を併用する光酸化水処理技術の商品化に成功した1)。しかし、光源に高圧水銀ランプを採用したので、電力効率が悪かったため優れた製品ではあったが営業的には普及に成功しなかった。
その後、神奈川県工業試験場が染色排水の処理に、オゾンと紫外線を併用するAOP技術を開発した2)。この分野への適用は、当社は岡山県でジーンズ染色排水処理に成功したが3)、市場においてはコスト面で未だに実用化は進んでいない。
(財)造水促進センターは1985年に、当時の汚濁の著しい多摩川の水を促進酸化法で浄化して工業用水を得る技術を実験し、光源は高圧水銀ランプより低圧水銀ランプの方が有効であることを実証した。しかし当時、工業用水は供給過剰状態であったので、実用化には至らなかった4)。写真2は、低圧水銀ランプと高圧水銀ランプの性能を比較するためのUV促進酸化実験装置、写真3は玉川浄水場における実験設備の全景である。
1986年にオランダのアムステルダムにおいて「Ozone+Ultraviolet Water Treatment」のタイトルで、オゾン併用処理を中心としたAOP技術の国際会議が世界で初めて開催された。3年後の1989年にもベルリンにおいて同様のタイトルで国際会議が開かれている。両会議とも基礎的なものが主であったが、数多くの発表がありAOP技術に対する関心は高まったが、実用化の進展は鈍かった。しかし他の水処理技術では処理が不可能か、あるいは効率の悪い残留薬物や発がん性難分解化合物などの処理に適しているので、最近は国内において廃棄物最終処分場の浸出水のダイオキシン類の分解除去に採用されている5)。2007年にはカリフォルニア州において、下水処理水を飲料水まで浄化する日量300万m3のプラントが建設され、発癌性物質のトリハロメタンや残留薬物の除去プロセスに、UVとH2O2を併用する促進酸化水処理技術が採用された6)。ただし市民の嫌悪感を考慮して、処理水は当面直接水道蛇口から供給されることはなく、地下水涵養に使われている。UVと酸化剤(O3)の併用技術は水処理分野に止まらず、半導体、液晶、電子回路基板等の電子製品の製造工程において、ドライ式高度洗浄・改質技術として急速に利用が進んでいる7)。
表1.UV促進酸化用紫外線ランプの代表例
項目\ランプ | 低圧水銀ランプ | 高圧水銀ランプ | |
---|---|---|---|
型名 | SUV110DH | EUV200rDH | HL1000J |
定格ランプワット数(W) | 110 | 200 | 1000 |
実ランプワット数(W) | 95 | 200 | 1000 |
ランプ電流(A) | 0.8 | 1.4 | 8.3 |
発光長(cm) | 110 | 150 | 12 |
全長(cm) | 1250 | 165 | (26) |
管径(cm) | 1.8 | 2.5 | 4.2 |
単位長ランプワット(W/cm) | 0.86 | 1.3 | 83 |
表面負荷(W/cm2) | 0.15 | 0.17 | 10.6 |
発光スペクトル(nm) | 185, 254 | 365(広域発光) |
3.光酸化水処理技術の概要
3-1.UVAOPの概要
光酸化水処理技術(UV促進酸化水処理:UV/AOP)は、水処理に一般的に使われる酸化剤と高いエネルギーをもつ紫外線(UV-C)を併用して、酸化力の強いヒドロキシラジカルを生成させ、汚染物を酸化分解して水を浄化する技術である。ヒドロキシラジカルは酸化還元電位が高く、他の水処理技術では処理が不可能か、あるいは効率の悪い残留薬物や発がん性難分解性化合物などの処理に適しているが、処理対象には選択性がある。そこで光酸化で分解出来ない原水の汚染負荷の軽減と光透過率を上げるために、原水のSS分はあらかじめろ過して光反応槽に導くことが大切である。
酸化分解反応が進むにつれて式(2)のように塩素が生成するので、アルカリ剤によって自動的にpHコントロールする。酸化分解に最適なpHがある。
光反応槽を出る処理水は中和槽で中和して、残留塩素のチェックと除去を同時に行う。これらの操作は全て自動制御化が出来る。
3-2UV/AOPの原理と構成
①光源
図1は低圧水銀ランプの光源で、ランプは石英ガラス製の保護管に挿入して水中に浸漬させる(写真4)。
酸化剤を速やかに分解して酸化還元電位の高いヒドロキシラジカルを生成させるためには、波長が285nm以下の短波長紫外線(UV-C)が有効で、長波長紫外線は効果がない。光源は低圧水銀ランプと高圧水銀ランプが主に使われるが、低圧水銀ランプは高圧に比べ10倍程度エネルギー効率が高い。高圧水銀ランプは低
圧に比べ寸法的に100倍近く電力密度が高いので、装置のサイズを小さくしたいときには適している(表1参照)。
②酸化剤
酸化剤には、オゾン、過酸化水素、次亜塩素酸塩が使われる。
光触媒や空気も効果はある。光触媒の研究は盛んにおこなわれているが、触媒の表面しか効果がないという空間的制約があって、効率が悪く、水処理の分野では実用化は進んでいない。塩素を利用した場合の反応過程は、次の三式で示される。
Cl₂+H₂O↔HOCl+HCl————————————————————-(1)
HOCl→hⅴ→HCl+O*———————————————————————-(2)
(C‐H)+O*→CO₂+H₂O————————————————————-(3)
塩素は水に溶解すると式(1)のように次亜塩素酸を生成し、これが光を吸収して式(2)のように活性酸素原子を生成し、これが汚染物質(C-H)と式(3)のように逐次反応して分解していくと考えられる。紫外線単独処理の場合の酸化剤は極めて僅かであるが、紫外線単独処理でも酸化分解(水の光分解)は可能で、超純水の微量TOC除去に利用されている。
③有効汚染物濃度範囲
図2にUV/AOPが有効に適用できる汚染物濃度の適用範囲を他の処理技術と比較して示す。
UV/AOPは、幅広い領域で適用が可能であるが、汚染物質濃度が希薄な領域での適用に適しており、高濃度汚染原水の処理には適さない。UV/AOP法の効果を高めるには、光酸化による分解が非効率な原水の高汚染負荷を、前処理で適当な値まで軽減することが重要なノウハウである。
④酸化剤の所要量
処理水のCODを除去するために必要な塩素量は、当量計算ではCl2/O=71/16≒4.4倍となり、COD値を1mg低下させるには4.4mgの塩素が必要である。実際の処理では計算値より多い塩素量が必要で、1mgのCODを低下させるには6~10mgの塩素が必要との報告が多い。
TOCについては、2005年の愛知万博の日本政府館における新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)のオゾン・紫外線による雑排水のTOC処理実証プラント(図3参照)の結果から、単位TOC(mgC)の除去に必要な消費オゾン量(mg)(⊿O3/⊿TOC)は、30mgO3/mgCが得られている8)。
⑤妨害物質の前処理と異種技術との併用
Sなどの浮遊成分は紫外線の透過率を大きく妨げる。その他に炭酸/重機酸の炭酸イオンなどはせっかく発生したヒドロキシラジカルを無効消費する妨害物質(スカベンジャー)となるので、事前に除去する必要がある。図3の曝気槽がその役割を担っている。
また、妨害物質でなくても高濃度汚濁の処理には光酸化は効率が悪いため、他の技術の前処理で濃度を低下させることにより、全体の浄化効率を高めることも大切である。
前述の前処理に加え、後段に活性炭反応塔や除鉄除マンガン吸着装置などを設置すると、さらに高度処理、かつ効率のよい複合処理が可能になる。特に活性炭装置の前に促進酸化を置くことで、活性炭の寿命が4~5倍に延びる結果が得られている
⑥フローシート
光反応槽を多段連続に並べると、処理の連続性が高くなる。一槽のバッチ処理では、処理の進んだ液と遅れている液が混合されるので、処理の進んだ液も何度も処理されることになるので、エネルギー効率は悪い。例えば反応槽を複数段並べると、最終目標除去率がα%の試料は、第一段の最適時間における到達処理率は計算上はα×50%、二段目の槽でα×75%、三段目でα×87.5%、四段目でα×93.75%と、処理率は高くなるが、単一槽の同一時間における処理率は後段の槽になるほど低くなる。この計算から連続処理を目指すとき、反応槽を三連にすると効率がよい。処理量が多い場合は槽の列を増やすか、単一反応槽のランプワット数を大きくするか、灯数を増やす。
⑦pH調整
処理効率はPHの影響を受けるので、PH調整をしながら処理を行う。酸化分解には最適なpHがあり、アルカリ領域でも処理は可能であるが一般に酸性が勝る。東レの装置は酸化分解に最適なpHはほぼpH5にあるとして、次亜塩素酸を酸化剤に使うと酸化分解反応が進むにつれて塩素が生成するので、アルカリ剤によって自動的にpHコントロールしていた1)。
反応槽の径は処理水の透過率を参考にして変える。現在は254nm線の透過率データに依存している。実装置の設計には対象水を使った各種基礎データの採取が必要である。写真5は染色排水の浄化システムのUV促進酸化槽で、構成は2連二列の規模。現場は瀬戸内海に面しているため、特に色の規制が厳しいため、この高度処理が採用された3)。
引用文献
1.広瀬道郎、大谷光伸:光を用いた水処理法, 安全工学,12(4)p283~290(1973)
2.堀川邦彦、若生彦治、佐藤栄一:染色排水の紫外線照射併用オゾン酸化処理,
工業用水,214,p21~24(1976)
3.社内資料:排水処理の実施例/瀬戸内海へ排水、UVと酸化剤による染色排水の脱色
4.造水促進センター:汚濁水の浄化処理技術開発実験報告書, 1985(昭和60)年3月,