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表面処理紫外線によるドライ高度洗浄

はじめに

工業製品の生産現場における洗浄技術には、表1に示すように多くの方法がある。ウェット洗浄は長い歴史があり、日常生活でも馴染が深い。ドライ洗浄は拭きとりとかサンドブラストのように古いものもあるが、主には先端技術製品の開発に伴い、その洗浄に適した高度洗浄技術として生まれたものが多い。ドライ洗浄にも色々あるが、今は紫外線洗浄とプラズマ洗浄が代表選手である。紫外線に洗浄効果や改質効果があることは古くから知られていたが、長く産業上の実用性は低いと見なされてきた(特に改質において)。
1980年代になって液晶TVの精細化が進み、生産歩留りに大きく悩まされた時に、その課題を解決する技術として紫外線洗浄が液晶表示素子のガラス面板洗浄に採用された。その結果歩留向上に効果のある事が分かり、ようやく本格的に実用化が進んだ。紫外線洗浄技術は紫外線と紫外線が生成するオゾンを併用する。洗浄にはオゾンも紫外線と同等に重要なので、最近はUVオゾン法と呼ばれることが多い。UVオゾン洗浄は最近まで液晶TVの製造工程における利用が突出していた。
液晶テレビはアメリカ生まれであるが日本で育った製品なので、そのお陰で紫外線洗浄技術も日本で育ち、いまや日本のお家芸になっている。手軽に使えながら高い効果を示すので、今では電波発振器の水晶振動子や半導体露光装置の光学レンズなど、用途は大きく広がっている。紫外線照射技術は洗浄に止まらず、プラスチックや金属には接着力を向上させる改質効果も併せ持つので、最近はスマートフォンやタブレット型PCなどの製造プロセスにおける採用が広がっている。しかし液晶TVの時代とは異なり、今回は高コスト体質の日本を避けて、生産舞台は東アジアや東南アジアに移ってしまった。しかしUVオゾンの機構は簡単であるが、洗浄効果と改質効果を併せ持っているので、正しく使いこなすノウハウが確立されるには、今後も日本における地道な研究開発が待たれる。

表1.色々な洗浄技術

ドライ洗浄 光洗浄(UVオゾン洗浄
プラズマ洗浄
イオン洗浄
スパッター洗浄
真空加熱洗浄
ブラスト洗浄
・乾式ブラスト法
・コールドジェット法
ウェット洗浄 水系洗浄
・界面活性剤アルカリ系
・界面活性剤アルカリ溶剤系
・アルカリ系
・オゾン水溶液系
・酸系
・その他の機能水
非水系洗浄技術
・溶剤:炭化水素系、アルコー
ル系、ハロゲン系、シリコン、
グリコールエーテル系、
ポリビニルピロリドン

 

1.紫外線洗浄技術の長所短所

ウェット洗浄の第1の特徴は、大きな汚れを取ることには優れているが、汚れが小さくなると洗浄効率は低下し、洗浄剤自体が表面に残り逆に汚染源となる欠点がある。UVオゾンやプラズマによるドライ洗浄は、大きな汚れを除くのには不向きだが、汚れを分子・原子レベルで高度に処理できる長所がある。表2に普通の窓ガラスを試料にして、代表的な湿式洗浄とプラズマ洗浄、UV洗浄の能力を、水滴の接触角で評価した結果を示す1)。この表の中のUVオゾン洗浄の結果は、我社の社内データである。プラズマ洗浄とUVオゾン洗浄の結果の水滴接触角の値4-5度は接触角計の測定限界なので、事実上は共に0度とみなせる。
この表から、ウェット洗浄の洗浄能力は接触角を10度以下に落とす事は難しいが、ドライ洗浄は短い時間で0度まで落とせる能力があることが分かる。面白いことにアルコールで手拭きした時と炭化水素系溶剤で洗浄した時は、接触角が反対に高くなっている。手拭きは極めて不安定な方法なのでここでは評価を省くが、炭化水素系溶剤で洗浄した時の接触角の上昇は異常に高い。これはガラスを洗浄するとき、最終工程で炭化水素系溶剤を用いると、見かけ上は汚れが大きくなることは現場ではよく知られた現象である。炭化水素系溶剤が油性汚染物を溶解する力は大きいが、溶剤自体も表面に残留し、数分子層はガラスに吸着して残る。試しに洗浄後のガラスを十分乾燥してから数百度に加熱すると、ガラス表面は炭化した溶剤で真っ赤になるのが分かる。高度洗浄のドライ洗浄を単独で用いることは、試料の保存履歴、言い換えると表面の汚染度によっては効率が悪い。洗浄対象物の汚染状態を事前に把握して、状況に応じて、適したウェット洗浄をドライ洗浄と組み合わせることは、大切なノウハウである。

 

表2.水滴の接触角による洗浄技術能力比較

処理条件 接触角(度)
無処理のガラス板 26
エーテル・アルコールで手拭き 28
洗剤(US)⇒市水(US)⇒炭化水素系溶剤(VP) 39
洗剤(US)⇒市水(US)⇒温純水(US) 17
洗剤(US)⇒市水(US)⇒IPA(VP) 13
洗剤⇒市水⇒プラズマ洗浄 5
洗剤⇒市水⇒UV洗浄 4

 

2.ガラスの表面

UVオゾン法は金属とプラスチックには、洗浄と改質効果を示すが、ガラスやセラミックには洗浄効果は示すが改質効果は無い。しかしガラス表面には水分、ガス分子やイオンが無限に近く吸着し、ガラス内にも拡散している。ガラスの臨界表面張力は72dyne/cmと高い。注目すべきは25度の水の表面張力は同じ72dyne/cmなので、ガラスは親水性が極めて高く反応性に富む。ガラスの表面ではSiイオンとOHイオンが結合してSi-OH基(シラノール基)を形成している。加熱することでHが抜けてシラノール基はSi-O基(シロキサン基)に変わるが、水分を吸収すると再びシラノール基に戻る。ガラス表面は金属やプラスチックのように表面は改質されないが、OH基が表面に強固に吸着しているので汚染層がその上に固着し易い。ガラスは特に洗浄が重要である理由である。ガラス表面の薄膜層を定量的に分類すると、表3のようになる。図1の光洗浄模式図を表3を参考して解説すると、ウェット洗浄の対象領域は数10μm⇒数10nmの汚染層であり、ドライ洗浄が効果を発揮するのは数10nm以下の物理吸着層である。この事からもドライ洗浄の前処理として適当なウェット洗浄を施す事は、必須条件に近い重要な組合せである。それに加えて、紫外線には有機化合物を分解する波長と架橋させる波長がある。表4に紫外線の波長の定義を示すが、波長の短いUV-C区分の紫外線は主に分解作用を示し、波長の長いUV-A区分の紫外線は反対に有機物を結合させる。有機汚染物が紫外線により架橋されると、その分解はきわめて難しくなる。紫外線洗浄に使われる低圧水銀ランプやキセノン・エキシマランプの発光波長はほとんどがUV-C区分なので、架橋反応はあまり起こらないが、数10μm 以上もの厚さの有機汚染物を対象にして分解処理に時間が掛かると、時には架橋反応が起こる可能性が残るので、この事からもウェット洗浄で取れるよう
な汚染は前処理で除去しておくことが大切である。

 

表3.ガラス表面の膜の厚さ

ガラス表面の薄膜 膜 厚
単原子層 ~0.2nm
化学吸着層 ~0.5nm
単分子層 0.5~10nm
HDDのDisc面潤滑剤 2nm
物理吸着層 ~50nm
蒸着層 数nm~数μm
メッキ・コーティング層 0.1~20μm

 

表4.UV の波長領域定義とエネルギーの大きさ

  X 線 UV( 紫 外 線 ) 可視光 赤外線
UV-C UV-B UV-A
波長 (nm)      100   280   315     400   780
Energy (kJ/mol)
(eV)
   1196   427   380     299   153
   12.4   4.4     3.9   3.1    1.6

 

3.有機汚染物とUV オゾンの相互反応

紫外線を高分子材に照射したとき、その紫外線が有機化合物に吸収され、そのエネルギーが被照射体の分子結合エネルギーより高ければ、結合は
解離する。表5 に代表的な分子結合のエネルギーを、表6 にUV オゾン洗浄に使われる低圧水銀ランプとXe エキシマランプ、参考に高分子材の重
合に使われる高圧水銀ランプの波長とエネルギーを示す。高圧水銀ランプの365nm 線のエネルギーは表5 の値と比べると低い方であるが、低圧水
銀ランプの185nm 線とXe エキシマランプの172nm 線のエネルギーは高い方に位置するので、有機化合物を分解出来る高い能力を有する。高分子表面の主要結合のC-H、C-C 結合が解離すると、特にH 原子は軽いので容易に離脱する。そこに大気中の酸素が働くと酸化反応が起こる。酸素が活性酸素であれば反応は更に速やかに進み、-OH(水酸基)、-COOH(カルボキシル基)や=C=O(カル
ボニル基)などの酸素に富む二次結合を示す含酸素官能基を表面に形成する。二次結合の官能基は一次結合の化学結合より弱いが、高い分子間力を有するので、被処理体表面の接着力を高める。この反応が更に深く進むと、有機化合物は酸素、窒素、H2O その他の分子まで分解されて、気体となって大気中に飛散する。このメカニズムからも、UV オゾン洗浄の対象は、数10nm 以下の有機汚染層であることが好ましいことが分かる。

 

表5.分子の結合解離エネルギ-

結合

分子(AB)

分子(A;B)

結合エネルギー(kJ/mol)

H-C CH3 H, CH2 457
O-C CH3OH CH3, OH 378.1
O-O O2
O3
H2O2
2O
O, O2
2OH
493.6
102
206.8
C-F C6H5F C6H5, F 534
Cl-Cl Cl2 2Cl 239.2
H-O H2O H, OH 492.15

化学便覧改訂5 版(2004)

4.表面の解析法

洗浄や改質に関わる表面の解析には多くの方法があるが、多岐にわたるので詳しい事は専門誌に譲る2)。洗浄の結果は特定の対象を追うのでなく、洗浄の特質として包括的結果を求めるので、あまり高度で細分化された解析法を使うと、複雑な表面化学の泥沼にはまることになるので、生産現場ではお勧めできない。以前はX線光電分光法が使われることもあったが、今は水滴の接触角法が主流になっていることは周知のとおりであるが、最近は表面張力で評価する方法が注目を浴びている。以前はJIS規格にもあるので3)、高分子材の接着力の評価に表面張力が使われてきた。しかし、ぬれ張力試験試薬の種類が以前は31~56mN/m間の20種しか入手できなかったので、水の接触角0度に相当する領域をぬれ張力試験試薬では評価出来なかった。しかし最近の高度表面処理技術の発展に伴い、最近は表面張力が22.6~73mN/m間の36種もの試薬が市販されている。水温が25度の水の表面張力が72mN/mなので、今では接触角0度相当のガラス表面状態をぬれ張力試験試薬で測れるようになった。表面張力の評価には機器は必要が無く、作業時間は10数分で済む。

表6.低圧水銀ランプ、Xe エキシマランプと高圧水銀ランプの波長とエネルギー

  低圧水銀ランプ Xe エキシマランプ 高圧水銀ランプ
発光波長 (nm) 185 254 172 365 (その他多数)
エネルギー (kJ/mol) 647 472 696 328
(eV) 6.7 4.9 7.2 3.4
大気中の有効照射距離 (mm) 0-50 0-5

5.洗浄効果と再汚染

表2)に示したように、プラズマ洗浄とUVオゾン洗浄は、水滴の接触角で評価して実質0度まで低下できる。理論的には他の有機化合物がガラス表面に単分子層でも残っていると、接触角は0度にはならない。実地で得られる接触角は、接触角計の測定限界があるので、多くのデータを集めてみると測定限界は3~6度間にばらついている。プラズマとUVオゾンのドライ洗浄は、ガラス表面を水滴の接触角で実質0度まで低下出来るのは間違いないが、ガラス表面の実体は中々捉え難い。別の問題として、表面から有機分子膜が全くなくなっても、大気中には多くのガスや蒸気が浮遊しているので、それらがガラス表面に付着して再汚染されるが、再汚染時間はどれぐらいなのか、未だに明確になっていない。文献データーを調べると短い方では30分、長い方では24時間などその差はかなり広い。そこで我々は低圧水銀ランプとXeエキシマランプを使って、ガラス洗浄の実験した。その結果を図2と図3に示す。低圧水銀ランプとエキシマランプの発光波長は、表6に示すように前者は254nm, 185nmの2スペクトルで、後者は172nmの単一波長である。光は波長が短いほどエネルギーが高く、185nm線は647kJ/molで172nm線の値は696kJ/molと約7.6%高い。それだけ性能は高いが172nm線は酸素の吸収が強いので、大気中の透過率は距離約6.6mmで10に低下する。図2から低圧水銀ランプで処理をすると、図の条件では10秒の処理で接触角の測定限界に達した。

処理時間を30秒に伸ばしたが、当然接触角の値は変わらない。その後に試験的に超音波洗浄(MS)を加えたが、接触角計では何の変化も起こらなかった。実験後試料を研究室内に放置して40時間後と120時間後に表面の接触角を計ったところ、10秒処理のサンプルは接触角が20度まで上昇したが、30秒処理の方は変化がない。120時間後の測定では10秒処理のサンプルは僅かに上昇して、接触角は21度に上がったが、30秒処理のサンプルは依然変化がなかった。この時点で実験を打ち切ったので以後の結果は不明であるが、これまでの色々なデータの中では最長の再汚染時間が得られた。
得られたと云うより再汚染時間は相当長いことが推定される結果になったが、この結果は洗浄度を水滴の接触角に依存する限りは、接触角が測定限界に達した時点で処理を止めると、それが最高点ではない事を示唆している。この実験では10秒の処理で限度値に達し、3倍の30秒処理で再汚染時間が相当延長した。詳しいデータは今後の実験に待たなければならないが、幸いUVオゾン洗浄時間は短いので、最低でも3倍処理時間を延ばすことを提案したい。洗浄度合いによって再汚染時間が変わる原因は、図2の実験で10秒処理後のガラス表面の状態は、表3から読取ると単分子層と化学吸着層の間にあることになる。ガラス面の一部は完全に汚染層は無くなっているが、まだ汚染層の島が多く残っているのではないか。大気中の浮遊有機分子はガラス表面に衝突を繰り返しており、同質の汚染膜には直ぐに着床するが、異質のガラス面では弾性衝突となって、跳ね返るであろうことは容易に推測される。

6.おわりに

現在はプラズマ洗浄とUVオゾン洗浄技術が、ドライ洗浄の代表とされている。プラズマは半導体の製造工程で長く使われてきたので知名度は高い。本来のプラズマ技術は良質の放電プラズマが求められるので、減圧ガスの所謂低温プラズマが主流であるが、プラズマの用途が増えて来たので、顧客のニーズに合わせて大気圧中で使えるプラズマ技術が誕生した。UVオゾン技術の方も、始めは低圧水銀ランプを使うものだけであったが、エキシマレーザーの中から、スイスのブラウンボベリー社(BBC)が今のXeエキシマランプを開発し、それが今ではUVオゾン技術の一翼を担うほどに成長してきた。UVオゾンとプラズマによるドライ洗浄技術は改質効果も併せ持つ上、先端技術製品の品質を向上させ歩留を高めるには無くてはならない技術に育ってきた。しかし利用者にとってはどの技術が自分たちの用途に、コストも含めて適しているか選択するのは、情報が十分でないため苦労している。4種の技術の長所短所を比較することはかなり難しいが、今後は4種の技術を的確に比較できる情報を、利用者の方々に提供できるように努めたい。

引用文献

1) 土橋義知,”フロン代替洗浄技術について”,島田理化技報,1(1), 5 (1991)
2) 大場洋一, “ガラス表面設計、洗浄と表面処理”,近代編集社, 第1版,(1983) pp. 76-139
3) JIS K 6768:プラスチック及びシートのぬれ張力試験方法

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