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表面処理金属のUVオゾン表面改質(R6)

はじめに

金属表面の接着メカニズムについて平易に全体を通して解説している文献はプラスチックやガラスのものに比べて少なく、そのため金属表面の接着改質は長く手探り状態が続いてきました。しかし製品の高度化・微細化の進歩にともない機能性材料への要求も高くなり、その中で樹脂・金属の一体成型などが進んでいます。我が社が多くの顧客と行った金属の改質実験で、UV/オゾンによる改質技術はプラスチックやガラスなどの無機材に比べ、金属表面の改質に適していることが分かってきました。金属表面は反応性が高いため、目視では問題が無いように見える表面も、表面状態は材料の保存中に劣化しており、加工製品の歩留まりを大きく低下させています。金属材こそ加工前に表面張力を評価して、それに応えた表面処理を施すことが大切な素材です。

1.概要

一次結合の共有結合やイオン結合などの力は、表1に示すように大きいが、被着体表面に接着剤を塗布する接着では、共有結合させることは容易ではありません。接着は主として二次結合力の水素結合・分子間力が被着体と接着剤の両者の間に働いて結合します。表1に結合とそのエネルギー並びに結合因子の接着への寄与度を示します。プラスチックに短波長紫外光を照射すると、光エネルギーによりCH、CC結合が切断され、そこに短波長UVが空気から生成したオゾン活性酸素が働いて、COH、COOHや=C=Oの富酸素極性の官能基が生成し、表面張力が高くなり親水性が増します。高分子材の界面における接着結合は水素結合やファンデルワールスに基づく二次結合が主要な結合因子です。ガラスなどの無機材表面においては、軟接着層と称される有機性汚染層が主な接着阻害因子です。有機化合物はUV照射によって結合が切断され、最終的にはCO2やH2O等にまで分解が進み、ガス化されて大気中に飛散して軟接着層が減少消滅します。ガラスの臨界表面張力は表2に示すように72dyn/cmと有機化合物に比べて高いので、軟接着層が無くなると、それだけで強力な接着力が得られます。

 

表1.結合種と結合エネルギー並びに接着寄与度

接着
寄与度
結合の種類 結合 エネルギー
(kJ/mol)
× 一次結合
(化学結合)
イオン結合 600~1200
共有結合 60~800
金属結合 100~350
酸-塩基結合 Bronsted酸-塩基 ~400
Lewis酸-塩基 ~32

二次結合

水素結合
(含:フッ素)
40~60
水素結合
(不含:フッ素)
10~20

(分子間力)
(van del Waals力)

分散力 ~40
誘起力 ~2
粗面 アンカー効果  
接着面積の拡大  
清浄面 軟接着層の除去  

 

表2.プラスチックの臨界表面張力

素材 臨界表面張力
(Dyn/cm)
ナイロン46 46
PET 43
ポリスチレン 33-36
フッ素樹脂 6-21
PP(ホモ) 27-29
PE 31-32
PC(bisphenol-A) 40-42
ガラス(25℃) 72

 

表3.金属の表面張力2)

物質 表面張力
(mN/m)
温度(℃)
塩化ナトリウム(空気中)
水銀(窒素中)
銀(水素中)
金(水素中)
銅(Ar中)
鉄(ヘリウム中)
117.6
482.1
892
1,120
1,157.6
1,720
803
25
1,000
1,200
1,100
1,570

71.96
75.62
25
0

2.金属の表面張力

金属表面は表3に示すように表面張力は極めて高く、セラミックや有機化合物よりはるかに活性度が高いことが特徴です。ここで注意して頂きたいのは、金属表面の反応性はあまりにも高いので、大気中では直ぐに表面に酸化被膜ができるため、常温では生純粋の金属表面張力は測れません。そのため表3の表面張力は、1000度以上の高温で溶かした金属を不活性ガス下で測った値です。我々が大気中で扱う金属は、表面は空気による一般酸化で生じたルーズな酸化被膜で覆われており、その上に有機性汚染層が堆積したものです。

3.UVオゾン処理による炭素鋼の表面改質実験データ

図1を使って、UVオゾン処理による金属表面の変化とその特徴を説明します。試料は炭素鋼S50Cを使いました。UVオゾン処理には我社のUVオゾン装置:SSP16110を用いました。粘着テープを剥がしたばかりの炭素鋼の表面張力は30dyn/cmで粘着もありました。試しにそれにUVオゾン処理を施した時は、図1の①が示すように3分間経過してもぬれ指数は全く変化なし。これは目視では見えなかった試料に残っている粘着材の残渣が、UVオゾン処理では全く取れなかったからです。
次いで粘着剤の残っている炭素鋼を、普通の石鹸を使って冷水で洗浄すると、簡単に粘着は無くなり、同時に②のカーブのようにぬれ張力は40dyn/cmに上がりました。しかし洗剤洗浄はなんど繰り返しても40dyn/cm以上には表面張力の値は上がりません。その試料にUVオゾンクリーニングを行うと、グラフ③に示すように、40dyn/cmであったものが、30秒の照射で73dyn/cmまで値が上がりました。これはUVオゾン処理によって高度洗浄が出来ることと並行して、普通なら難しい下地金属層が露出して、紫外線で生成された活性酸素による酸化が金属表面で促進されて、新鮮な酸化層による高い表面エネルギーの面が形成され、それに金属表面に強固に吸着している水分が触媒として働き、水素結合が形成されてぬれ性が向上したものと推定されます。

 

 

 

表3.表面張力と接着性能相関関係の分類表

着性能区分

表面張力
(dyn/cm)

接着性能
接着不可領域 <38 ぬれ性が足りないため、実用に耐える接着力が得られないダイン領域。

実用的接着力はあるが、不確実領域

39-50 実用に耐える接着力は得られる。しかし十分安全なレベルではなく、不適当な貯蔵条件の影響などで、表面ぬれ性の劣化による接着力不足に陥る危険がある。
優良接着領域
Excellent level
54-72

十分な接着力が得られるダインレベル。このレベルであれば数週間の貯蔵に耐えられ、表面張力の測定が不確実であっても、それをカバーできるレベルである。

  72 ガラス表面の水温25度の水滴接触角=0度に相当

接着力不確定領域

過剰処理の恐れあり

>72 過剰処理の恐れがあるダインレベルである。この被着材の値は、多くの場合は接着剤の表面張力を超える。接着剤と被着材の表面張力値の差が大きくなると、ぬれ性が低下して接着力が低下する。まだ接着特性が十分解明されていない未開発領域である。

3.ぬれ張力の値を指標にして、毎日簡単にできる金属の接着加工の品質管理

図1に示したように、高度な改質力のあるプラズマやUVオゾンによる表面処理技術は、欠点として大きな汚染層の除去には不適当です(図1①)。反対に一般的な湿式洗浄法は高度な洗浄力はないが、大きな汚染を除くことには有力です(図1②)。しかし洗剤洗浄だけでは表面張力は40dyn/cmまで上がりましたが、洗剤洗浄にはそれ以上に表面エネルギーを高める能力はありません。しかしUVオゾン処理にはラジカル形成による化学反応で、表面張力をそれ以上に上げる能力があります(図1③)。この事からローテクの洗浄技術とハイテクのUVオゾン技術の併用は有効であることが理解できます。きれいに見える金属表面にも自然酸化による金属酸化膜はありますが、膜厚が数十nmレベルのとき、それよりも下地金属の高い活性度の影響を受けて、表面は有機化合物の油性膜で汚染され易く、親水性は早く低下します。そのため生産現場で素材の加工性の適不適を知るために、表面張力を評価することをお勧めします。第一の理由は、表面張力の測定に要する時間が分単位以下の短さとコストの低さです。第二の理由は、多くの実績データから表3に示すような、表面張力と接着性能の間に、極めて高い実用的相関関係があるため。表面張力が38mN/m(dyn/cm)以下では、実用的な接着強度が得られません。金属材料や部品の表面の状態は、保管履歴に大きく影響を受けるので、接着の品質管理においては、日常の作業において材料の受入れから行うことが大切です。しかし都度接着強度を調べることは事実上不可能ですが、ぬれ張力試薬を使う表面張力の評価なら可能です。品質管理指標として表面張力を採用して、表面張力が40以下の素材は受取らない。そうして製品の状態に応じて所要の表面張力指標を設定しておき、表面張力を確認してから加工に入ることで、製品の歩留まりは大きく向上します。すべての素材に有効な工程管理ですが、特に金属材料に対しては必須管理手法です。もちろん製品の本当の接着性能は、直接接着強度を計り、耐久試験などで評価しなければなりません。しかし接着強度の評価には試料の調整を含め数日以上の長い時間を要します。結合エネルギーは、高エネルギーXPS、SIMS、TOFSIMS、昇温離脱ガス分析などで分析できます。これらの装置によって、以前は難しかった接着界面における有機分子と金属間に働く相互作用とその量に関する界面化学的基礎データの蓄積が進んでいます。例えばハードディスク上の潤滑剤分子のOH基を含むPhosphazenegroupsが、HD面に一定の力で吸着していることが明らかにされました。しかし何れも生産現場で簡単に、品質管理などに使えるものではありません3)。

引用文献

1.David E. King , Oxidation of gold by ultraviolet light and ozone at 25℃”,
J. Vac. Sci. Technol. A, 13(3), May/June, 1247-1253(1995)
2.国立天文台編 理科年表, 机上版83冊丸善,(2010), p378
3.中前勝彦, 樹脂-金属間の接着・接合のメカニズムの界面化学的考察”

表面技術66(8), p338 341, (2015)

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