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ランプ低圧水銀ランプと温度

1.水銀ランプのガス圧と温度

水銀の融点は-38.86℃、沸点は356.7℃である。金属としては値が低いので、室温では液体であり固体でもガス体でもない。水銀の沸点より高い温度で作動するランプの水銀ガス圧は、放電管内の水銀が全てガス化しているので、封入水銀量とランプバルブの内容積との比及び管壁の平均温度で決まる。高圧水銀ランプや超高圧水銀ランプ或いはメタルハライドランプがこれに該当する。例えば内径が20mmで管長が120mmの管状ランプに1gの水銀を入れて放電させ、その時のバルブ平均温度が700℃であるとすると、管内の水銀ガス圧は約7.6atm(5.78×103torr)になる。
計算方法は、水銀の原子量は200、完全気体の0℃, 1atmにおける容積は22.4㍑なので、封入水銀量から水銀ガスの容積を求め(Boyle’s low)、バルブ容積で割ってガス圧を計算して、それを作動時の温度で補正する(Charle’s low)。ガス全体の平均温度を求めるのは難しいので、管壁の平均温度でそれに換える。
封入金属の沸点より低い温度で作動するランプの管内ガス圧は、沸点より高い温度で作動するランプよりはるかに複雑で制御が難しい。低圧水銀ランプの他では、ルビジュームランプや照明用低圧ナトリュームランプがこれに該当する。低圧水銀ランプの放電時の管壁温度は、一般には高い物でも200℃以下である。この種のランプのガス圧はボイル・シャールの法則とは関わりが無く、管壁温度と関連する蒸気圧が封入金属のガス圧となる。しかしランプの管壁温度は場所によって異なるので、ガス圧は最も低い管壁温度、即ち最冷点の蒸気圧と一致する。しかし最冷点の占める面積もガス圧制御能力に影響する。超高出力蛍光ランプ
の場合は、最冷点の面積は管壁全体の1%程度あれば効果があるとされ1)、それより面積が小さい時は、管内のガス圧は不安定になり制御出来なくなる。
後で詳しく述べるが、蛍光ランプは管壁温度が35℃から45℃の時、光出力が最も高くなると言われている。表12)によれば40℃における水銀蒸気圧は約6×10-3torrで、この圧力は高真空の最低の値に相当する3)。点灯時の水銀ガス圧が低いので、僅かな低温側への温度のずれがランプ寿命を短縮させる大きな原因となる。

2.UV出力と温度

低圧水銀ランプのUV出力は、ガス圧が下がり水銀原子密度が小さくなると、励起原子数が少なくなり減少する。反対にガス圧が上がり水銀原子密度が大きくなると、光子が水銀原子に再吸収される確率が増えるため減少する。したがって共鳴線の254nmと185nm線には発生効率が最大になる水銀原子密度、即ちそれに対応する管壁温度がある。再吸収は放電路から管壁に至る大きさの影響を受けるので、最適の管壁温度はランプの管径によって異なり、内径15.8mmの直管ランプでは44℃、25.4mmのランプでは37℃程度であると言われている4)。
図1によると1.5アンペアの負荷を与えた98T12(?)蛍光ランプは、管壁温度が約35℃の時、光出力が最も高くなっている。温度がそれより高くなっても、或いは低くなっても光出力は低下する。低下の傾向は低温側の方で強い。この光出力は蛍光体を254nmのUVが励起したもので、254nm線の強度と比例すると考えて間違いない。低圧水銀ランプは254nm以外に185nm線も放射している。その値は254nmの12~34%であり、同じ共鳴線でありながら、高温側では185nm線の出力の低下が少ないので、その比率が高くなる5)。
管壁温度が高温側にシフトすると、UV出力の他にランプ電圧・ワット数・発光効率が直線的に低下して、唯一ランプ電流だけが増加する。温度が低温側にシフトすると、光出力と発光効率が高温側より激しく低下する。電流・電圧・電力は高温側と異なり共に横ばいになっている。低温側では水銀ガス圧が下がり、緩衝ガスとして封入している希ガスの放電比率が高くなり、希ガスだけの放電になる事もある。
図2は40W蛍光ランプ(FL-40)の温度特性を示した図である6)。横軸が周囲温度なっているところだけが図1と異なるが、温度特性は図1
と変わりはない。FL-40は、標準の点灯条件(周囲温度25℃,湿度65%以下、無風)で、最適管壁温度になり最高の出力を発揮するように設計されている。
40W蛍光ランプの発光部の管壁温度は40℃弱で、管端はそれより温度が高く、電極近辺の温度が最も高い(図3参照)7)。
「FL-40」は表面負荷に基づく蛍光ランプの分類では標準型ランプとされ、表面負荷は約0.03~0.04mW/cm2である。
表面負荷が0.09mW/cm2台の超高出力型蛍光ランプ「FLR110EH」の管壁温度は、標準の点灯条件では、バルブ面積の殆んどを占める発光部の温度が60℃と最適温度より20℃以上高い。図2によればこの温度では、光出力は20
%以上低下する。電極部に至っては100℃を越えている。蛍光ランプの超高出力タイプは、強制冷却までは必要ないが、最適最冷点を得るには、何らかの工夫が必要なランプである。
センのSUVタイプランプでも表面負荷は約0.14mW/cm2あるので8)、最冷点を得るにはより効果的な工夫や、強制冷却が必要なことは理解できる。

表1.温度と水銀蒸気圧の関係

温度(℃) 0 10 20 30 40 50 60 80 100
蒸気圧(torr×10⁻²) 0.019 0.049 0.120 0.278 0.608 1.267 2.524 8.88 27.29

3.UV出力を得るための温度調節

これまで下記のような蛍光ランプ冷却法が、主にアメリカ・オランダで報告されている。何れもエネルギーを消費しない非強制冷却法である。
(1)電極距離法(管端冷却)(5)電極後方遮光法
(2)突起法(6)棒軸法
(3)非円形断面法(7)冷却フィン法
(4)チップ管法(8)熱電冷却法
市販されている蛍光ランプには、(1)電極距離法と(3)非円形断面法が使われており、「FLR110EH」は電極距離法を採用している。発光部の管壁温度は一定であるが、管端温度は電極から距離が離れるほど温度が下がる。管端温度が40℃以下になるような距離を持たせたランプが「FLR110EH」であり、図2によればその距離は約7cmとなっている。このランプの場合、最冷点の効果を発揮するために必要な最小長さは、管長が約240cmなので全長の1%の半分は1.2cmとなる。表面負荷の高いランプになるほど最冷点の面積は大きくなり、管長が長くなれば均一な照度を得るために、さらに最冷点の数も多く必要になることは、経験的に理解できる。しかしその条件はまだ明確にされていない。報告された資料も無いので、自らデーターを求め、経験を積重ねていくしかない。
次いで図2に表面負荷が約0.2W/cm2クラスの、EUVタイプランプの管壁温度分布(予想)図を示す。表面負荷は超高出力蛍光ランプの2倍強もあるので、管壁や電極周辺の温度は、FLR110EHに比べかなり高い。管端から電極までの距離は偶然同じ位であるが、この寸法では表面負荷の違いから見ても足らず、強制冷却を加えなければ40℃以下まで温度は下がらないことは、容易に予想される。
突起形水銀溜は冷却点として働き、複数個設ければ長い管長ランプの照度分布を均一にするのに有効である。水銀より移動度の悪いナトリュームランプでは、全長約60cmのランプに10個以上の小さな突起を付けている。
複数の冷却点を設け、それらに最冷点の役割を担はせるには、温度が均一になるように設定しなければ、効果を発揮しない。例えば図3に示す様に、二つの水銀溜があって、一方の突起が40℃で他方が80℃以上もあれば、長い時間の点灯中に、水銀は全て低温側に偏ってしまう。したがって図のように強制空冷を施し、温度を他の最冷点と同じ程度まで下げるか、全体の発熱を何らかの方法で取り去り、冷点の温度を全て揃えるようにしなければならない。
表面負荷が0.14W/cm2台の標準出力のSUVタイプは、ランプの両端を冷却するだけで、高いUV照度が得られたが、0.2W/cm2を越える高出力のEUVタイプは、両端の二箇所の冷却点だけでは制御が難しいと思われる。

参考文献

1. Underwood, P.J. & Beck, C.E.: Mercury Pressure of Fluorescent Lamps and its
Application to Luminaries, Illuminating Engineering, LV, 1, P47-55, (January 1960)
2. 国立天文台編:理科年表・机上版, 丸善,(1991) p482
3. 中川 洋, 小宮宗治:真空装置・真空技術講座5,日刊工業新聞社,(1965) p74
4. 照明学会編,ライティングハンドブック, p.135, オーム社(1987)
5. Barnes B.T.: Intensities of λ1850 and λ2537 in Low-Pressure Mercury Vapor Lamps
with Rare Gas Present, Journal of Applied Physics, 31, 5, (1960) p852-854
6. 照明学会編,照明ハンドブック,p.169, オーム社(1978)
7. 牧野・土井・伊東:超高出力ケイ光ランプ,三菱電機技報, 37, 10,(1963) p1206-1210
8. セン社内資料:表面負荷による低圧水銀ランプの分類, 2000/6/24

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