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環境・衛生オゾンガス滅菌法と他のガス滅菌法比較およびCT値

1.オゾン滅菌

 オゾンは強力な酸化剤であり、その酸化力により細菌やウイルスなどを不活化し、脱臭効果も合わせて示します。従来からよく使われる塩素系薬剤、ホルマリン、酸化エチレンガスなどは、残留性や副生成物による環境負荷の弊害があるため、近年、放置しておくと最後は酸素に戻るオゾンガスの安全特性が買われて、オゾンガスを室内における燻蒸消毒や脱臭に採用されることが多くなっています。オゾンガスはホルマリンガスと同等の殺菌効果があり、無菌病棟の消毒に使われています。菌の死滅量は指数関数(log数)は異なります。一例として2-logの不活化に必要な消毒剤の表1に示します。

 

表1 2-log不活化に必要な消毒剤接触量の概略値

Pathogens

Cl2

(Mg/L)・min

Chloramines

(Mg/L)・min

CIO2

(Mg/L)・min

O3

(Mg/L)・min

UV

mJ/cm²

E.coli 0.034~0.05 95~180 0.4~0.75 0.02 5.4
rotavirus 0.025 5000 0.2~0.3 0.019~0.064 25
poliovirus 1400 0.2~6.7 0.2 21
Giardia lamblia 47~150 2200 26 0.5~0.6 5
Cryptosporidium parvum 1600 7200 78 5~10 1~10

 

表1には右端に紫外線(254nm)の露光量が参考に記載されていますが、紫外線は光なので他の媒体のガスとは単位が異なります。他の4種のガスの濃度単位は”Mg/L”で、UVは露光量で単位は”mJ/cm²”です。オゾンガス濃度を示すとき、オゾン量は容積(vol)か重量(wt)かを明示しなければなりません。単位が”mg/L”の時は重量と容積によって数値は変わりませんが、単位が”ppm”の時は表2にように量は同じでも数値は変わるので注意が必要です。表の値によるとウイルスは紫外線には強いがオゾンにはかなり弱いようです。

 

表2 オゾンガス濃度3種類の単位と重量・容量の換算表

ppm(vol) ppm(wt) mg/L
510 843 1.00
10,000 16,500 19.6
1.0 1.65 0.196×10‾²

2.CT値

 オゾンガスとオゾン水の滅菌効果は、オゾン濃度(C)と接触時間(T)の積CT値で評価できます。CT値の測定装置は市販されています。オゾンガスの反応速度は湿度や温度の影響を大きく受け、相対湿度50%以下では効果を極めて低く、湿度80%以上では高くなります。オゾンは分解すると酸素に戻るので、排オゾンガスは自然分解により消化できることが大きな利点です。CT値は、滅菌ガス濃度(C)とそのガスに接触した時間の積で表す値で、滅菌ガスの仕事量(Amount of work)を示します。

  ※滅菌ガスの仕事量(CT値)=滅菌ガス濃度(ppm)×接触時間(min)

 つまり滅菌ガス濃度1ppmのところに媒体が60分曝されると、CT値は60となり、ガス濃度が60ppmのところに1分曝しておいても、同じくCT値は60です。滅菌の不活化、即ち減少させるか指数値で計算されます。

表3 除菌力CT値の代表的な値

ウイルス・細菌名 除菌方法

CT値

ppm×min

死滅率

減少率(%)

1)大腸菌 O3ガス 60 99.99

2)Staphy lococcus pyogenes(化膿レンサ球菌)

O3ガス 60 100
3)Staphy lococcus aureus IF012732(化膿レンサ球菌)  O3ガス 24 100
4)黄色ブドウ球菌N20  O3ガス 60 99.98
5)黄色ブドウ球菌RN2677         O3ガス 60 99.99
6)インフルエンザ(H1N1)  O3ガス 18 99.78
7)インフルエンザ(H5N1)  O3ガス 60 100
8)ノロウイルス  O3ガス 72 100
9)Bacillus Cereus IFO13494  O3ガス 24 100
10)腸炎ビブリオIFO12711  O3ガス 24 100
11)サルモネラ菌IFO14193  O3ガス 24 100

各検証機関:1)~5)昭和薬科大学微生研究室、6)北里大学ウイルス科、7)総務省、8)ビジョンバイオ㈱、3)9)10)(財)日本食品分析センター、11)岡山工業技術センター

表3からCT値60以下で多くのウイルス・細菌が除菌できることが分かりますが、菌種によって強さはかなり異なります。ノロウイルスと結核菌(表に記載されておりませんが)のCT値は72です。

3.オゾンの分解速度

 因みに、UV露光量V(J/㎠)は紫外線照度(W/㎠)と照射時間(sec)の積で表されます。オゾンは3個の酸素原子(O)で構成されているが、オゾンの作用はオゾン(O3)が分解して酸素ガス(O2)と酸素原子(O)に分解した時の酸素原子が効力を示します。そのためオゾンの効果を検討する時は、オゾンの分解速度も考慮に入れなければなりません。オゾンは水中では早く分解しますが、空気中では遅い。オゾンの分解速度はオゾンの元の量が半分になる時間(半減期)で表します。下記に周囲環境によるオゾン半減期を示します。

  1.乾燥空気中:10数時間

  2.純水中:20分

  3.蒸留水:60分

  4.海水中:6分

  5.紫外線下:秒速?

 紫外線によってオゾンは速やかに分解されるので、オゾンの効果を早く活かすには紫外線も有効かファクターです。紫外線の波長と光量によって分解作用は影響を受けますが、殺菌ランプを用いるとオゾンの半減期は秒単位と短くなります。

 ウイルスが出てくるのは咳、唾、呼気との事ですが、普通の呼気ではうつりません。K大学の先端研究病院の例では、殆どの感染は、

  1.感染者から咳やくしゃみで散った飛沫を吸い込む

  2.飛沫が目に入る

  3.手指についたウイルスを食事と一緒に嚥下してしまう

これら3つの経路で起こっています。感染にはウイルス粒子として100万個ほど必要とのことで、一回のくしゃみや咳、大声での会話で約200万個が飛び散ると考えられています。

 

 

引用文献

  1)神力就子 et al,”オゾンによる核酸の分解に関する研究” 北海道工業開発研究所報告 第40号,p1-p77(1986)

  2)正岡 徹,”大阪成人病センターにおける無菌病室” 成人病、20(1),p15-p21(1979)

  3)JWCR編, 代替消毒剤の実用化に関するマニュアル, 水道技術研究センター,p143(2002)

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