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環境・衛生オゾンガス滅菌法概要・オゾン滅菌CT値(R8)

特許出願中(特願:2020-155909)

1.はじめに

 ”バイオクリーン(BioClean)”は遠紫外線(UV-C)とオゾンを使い分けて、室内空間と機器などの表面並びに室内空気を消毒できる、性能は医療級の環境衛生機器です。しかし、病原性微生物の不活化力があるオゾンや紫外線は人体にも有害なので、人が活動する”有人モード”と人がいない”無人モード”に分けて、紫外線ランプを使い分けて24時間切れ目なく消毒を続ける事ができる機器に仕上げました。

 オゾン発生には、波長が254nmと185nmの短波長紫外線を発光する①オゾンランプを使い、空気の消毒には波長185nmをカットした②オゾンフリーランプの2種のランプを採用しました。②オゾンフリーランプは殺菌力の強い254nm線だけを発光しますが、254nm線はオゾンを秒単位で素早く分解する力があるので、バイオクリーンはその力も活かして利用します。

 オゾンガスは主に無声放電や沿面放電で作られますが、紫外線が作るオゾンガスは、無声放電で作るオゾンガスが含む有害な窒素酸化物を含まず、環境衛生器や医療機器に適しています。

①オゾンランプ

UV254nmと185nm光を発光します。185nm光は酸素をオゾンに変え、オゾンガスは室内の隅々まで拡散して消毒します。高濃度のオゾンは人体に有害なので、無人モードの時に使用します。

②オゾンフリーランプ

UV254nm光だけを発光し、185nm光は発光しません。254nm光は空気を滅菌消毒する力が強いです。その他にオゾンガスの分解を加速する力があるので有人モードのスタート時に、空気を消毒しながら二次的に室内の残留オゾンの濃度を下げることにも寄与します。

 

2.”BioClean”BC110-Wの機構と性能酸素

図1と図2に示した写真はBioCleanの実施例で、オゾンランプとオゾンフリーランプの2種類のランプが搭載された環境衛生機器で、オゾンガスによるウイルス不活化と紫外線による滅菌が可能です。

両ランプは同じ低圧水銀ランプで、寸法や電気定格は同じですが、役割は異なります。BC110-Wは発売以来20年有余の歴史があります。

 COVID-19症対策には、BC110-Wを改良した可搬型の機種を計画しています。COVID-19症を対象とする時のオゾン濃度は1ppmで60分のCT値を越える性能が必要です。弊社は2~4ppmのオゾン濃度を基準にしました。室内寸法が9.45m2×H3.4(m)の実験室において、バイオクリーンBC110-Wの運転によるオゾン濃度変化を調べたところ、図4に示すように、30分で室内オゾン濃度が4ppmに達し、ランプを消灯して直ぐに換気を始めたところ、室内のオゾン濃度は30分で0ppmに下がりました。換気をしない時にはオゾン濃度は30分を経過しても3ppmを大きく上回っていました。

 オゾンガスは、表2に示す”オゾン濃度とその特性”に示すように、濃度が0.1ppm以下の時は人体に無害ですが、それよりも高濃度では有害です。両紫外線には共に人体に有害で、特に254nm線は、数十センチの距離で裸眼に数十秒間照射するだけで、数時間後の潜伏期間後、目が開けられない程痛みます。とにかく危険です。滅菌力や消毒力のある素材は、いずれも人体に有害です。

 

そのため消毒剤の効果と害の濃度や量の関係をしっかり把握して有人モードと無人モードに分けて使い、効果と人への安全の両方を担保する責任が求められます。脱臭を目的とする時の室内オゾン濃度は0.5~1ppmで足りますが、医療級バイオクリーンに求められる第一機能は、病原体の不活化です。新型コロナ禍が広がった現在では、オゾン濃度の働きもかなり明確にされてきました。現在、低濃度側のオゾン濃度は1ppmと言われておりますが、我が社は下限について安全率を考慮して、空間のオゾン濃度は2ppm以上に設定しています。この濃度で処理する時は、必ず無人モードでなければなりません。一方、有人モード時に何も対策しないのは、極めて伝染力が強いコロナウイルスに対しては許されません。当機器の第二機能は室内が有人モードの時は、オゾンランプを消灯して、オゾンフリーランプを点灯して、機器内で空気を紫外線消毒し、室内へは浄化した空気を供給・循環させる事にあります。このハイブリット機能を交互に活かすことで、バイオクリーンは24時間切れ目なく消毒機能を発揮します。

 

3.オゾンの性能と不活化性能

3-1.CT値の定義

 オゾンガスの効果は、ガス濃度(ppm)と接触時間(min)の積を暴露量(CT値)として、滅菌率とリンクします。紫外線の効果も同じように、UV照射(mW/cm2)と照射時間(sec)の積を露光量として、滅菌率とリンクします。但し紫外線の時間単位は秒(sec)で、オゾンの作用時間単位は分(min)で、その関係式を①・②の式に示します。

①滅菌ガスの暴露量(CT値)=滅菌ガス濃度(ppm)×接触時間(min)

②紫外線の露光量(mW/cm2×sec)=UV照度(W/cm2)×照射時間(sec)

 

 濃度1ppmの滅菌ガスを対象物に60分接触させると、そのCT値は60となり、濃度60ppmの滅菌ガスを1分接触させてもCT値は同じ60となります。滅菌や不活化の程度は指数値で示されることが多く、微生物やウイルスは生物なので、残ったものは再び繁殖したり、光回復現象などがあるので、一桁以下の不活化率では消毒の効果は確実ではないので、二~三桁以上の値が必要とされます。桁数は利用者が決めるものです。

 

3-2.オゾン消毒のデータ

 オゾンは強力な酸化剤であり、その酸化力により細菌やウイルスを不活化し、脱臭効果等も示します。従来から使われる塩素系薬剤、ホルマリン、酸化エチレンなどは、残留毒性や副生成物による環境負荷の弊害があるため、放置しておくと最後は酸素に戻るオゾンガスの安全性と利便性が買われて、オゾンガスを室内における燻蒸消毒や脱臭に多く採用されています。欧米ではオゾンガスを使った家庭用の洗濯機が売られています。オゾンガスは無菌病棟の消毒にも使われています。表1.にオゾンガスによる色々な微生物のCT値と死滅率のデータを示します。

表1.オゾンガス除菌によるCT値と死滅率データ   出典:Websiteより Apri 12(2020)

番号 ウイルス・細菌名 除菌方法 CT値 死滅率(%)
1 大腸菌 :一般細菌 O3ガス 60 99.99
2 Staphy lococcus(化膿レンサ球菌) :一般細菌 O3ガス 60 100
3 Staphy lococcus aureus IF012732(〃) :一般細菌 O3ガス 24 100
4 黄色ブドウ球菌 N20 :一般細菌 O3ガス 60 99.98
5 黄色ブドウ球菌 RN2677 :一般細菌 O3ガス 60 99.99
6 インフルエンザ(H1N1) O3ガス 18 99.78
7 インフルエンザ(H5N1) O3ガス 60 100
8 ノロウイルス O3ガス 72 100
9 新型コロナウイルス O3ガス 60 90~99
2019 novel coronavirus, SARS-CoV-2 330 99.9~99.99
10 Bacillus Cereus IFO13494 O3ガス 24 100
11 腸炎ビブリオ IFO12711 O3ガス 24 100
12 サルモネラ菌 IFO14193 O3ガス 24 100

表3のデータ検証機関名:1,2,3,4,5:昭和薬科大学微生物研究室 6:北里大学ウイルス科 7:総務省 8:ビジョンバイオ㈱ 9:奈良県立医科大学 10,11:日本食品分析センター 12:岡山工業技術センター

 

新型コロナウイルスのCT値データは2020年5月14日に世界で初めて県立奈良医科大学グループが検証して発表しました。そのデータを表1.No.9に示します。それによるとCT値=60の時の新型コロナウイルスの死滅率は90~99%、CT値=330では死滅率は99.9~99.99%と実証されました。新型コロナウイルスのオゾン死滅率は、他のウイルスより強いようですが、オゾンガスで十分実用的に不活化されることが証明されました。

 

3-3.オゾンガスの安全管理規定

 オゾンは酸化力の強い気体で様々な有益な効果がありますが、生体には有害でもあるので、安全を守りながら効果を生かすには、オゾンガスの濃度と効果・弊害の関係をよく理解して、濃度管理を的確にすることが大切です。オゾンの効果及び弊害と濃度の関係を表2に示します。

 労働環境におけるオゾンの安全基準は、日本産業衛生学会・許容濃度委員会によりガイドラインが定められています。その値は米国産業衛生専門官会議(ACGIH)が定めたものに準じています。安全管理に必要な濃度範囲のオゾン濃度は、安価なガス検知管式の濃度計で測定できます。その種の計測器は一万円強の価格で市販されています。勿論、高性能な気体あるいは水中のオゾン濃度計も多く販売されています。

 

表2.オゾン濃度とその特徴

濃度(ppm) 特性(効果と弊害)
0.02~0.05

個人差があるが、この濃度を下回るとオゾン臭がしない。

若者の方が嗅覚は鋭いので、若者は0.05ppm以下の濃度でもオゾン臭を感じることがある。オゾン臭がしない時はほぼ安全といえるので、嗅覚も優れた安全モニターとなる。

0.05~0.1

8時間労働(ACGIH 2001)における許容濃度

重労働 -0.05ppm: 普通の労働 -0.08ppm: 軽作業 -0.10ppm

0.2 重労働・軽作業含め2時間以内の許容値上限(ACGIH 2001)
0.5 健康人が臨時に1時間以内の短時間の作業をする場合、この濃度以下であれば心配はないが、オゾンガスは鼻やのどに刺激を与え、ひどくなると頭痛、胸部痛、気道の渇き、咳を起こすので、活性炭付きマスクの着用が望ましい。
0.5~1.0 この値の濃度で1週間以上オゾンを適用すると室内殺菌、脱臭やゴキブリ忌避1)の効果がある
10 数十分で呼吸困難・肺水腫・昏睡状態になることもある
40 ホルマリンガスと同等の殺菌効果があり、無菌病棟の消毒に使われている2)。引用文献には1時間の稼働で殺菌効果が得られると記載されている。
~200 紫外線発生式オゾン装置の原料ガスを空気とする場合の平均的オゾン濃度上限。無声放電式の約100分の1の濃度。

20,000(~40g/Nm2)

無声放電式のオゾン発生装置の原料ガスを空気とした場合のオゾン濃度

1)特開昭62-215509,名称:ゴキブリの駆除方法 出願人:大木茂雄

2)正岡 徹 ”大阪成人病センターにおける無菌病室” 成人病.20(1), 15-21,1979

 

4.BioClean”BC110-W”の室内オゾン濃度変動データ

SEN LIGHTSのバイオクリーンは、人がいない環境(無人モード)ではオゾンガスではオゾンガスを活用し、人がいる環境(有人モード)ではオゾンを止め、紫外線だけの消毒力を活かし、切れ目なく24時間の消毒を続けることが出来る医療級ハイブリット環境衛生機器です。

 

5.おわりに

2019 novel coronavirus, SARS-Co-V-2は厨房などの悪臭の害に比べると、比較にならない程の災いを人に与えます。その主要な害は人類が経験したことのない強い、”感染力”にあります。オゾンガス、特に紫外線で作るオゾンは安全性が高く、オゾンガスと紫外線を組み合わせると、危険な感染性ウイルスを防止するために、24時間連続して終日稼働させることが可能です。

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